ハルウララ、110連敗 姉妹そろって記録更新
 高知競馬(高知市長浜)でデビュー以来連敗中の人気牝馬ハルウララ(8歳)は2004年6月13日、第9レースに出走、10頭中3着で連敗記録を110に伸ばした。
 妹のミツイシフラワー(3歳)も別のレースに出走したが、9頭中2着で、14連敗。
 この日、ハルウララは単勝3・1倍で、3月に武豊騎手が騎乗したレース以来の一番人気。レース終盤までは後方につけていたが、ゴール手前で追い上げ、見せ場をつくり、2着の前回に続き2戦連続の入賞となった。
 宗石大調教師(53)は「4月から後半で追い上げる作戦に変更した。夏場は強いので、レース編成次第では初勝利も期待できる」と笑顔だった。(共同通信)

ハルウララの交通安全カード 「走っても当たらない」
 兵庫県自家用自動車協会連合会はこのほど、高知競馬で109連敗中のハルウララ号の写真を用いた交通安全カードを作成、28日から県内各地区の同協会で無料配布する。
 「走っても走っても(馬券が)当たらない」ハルウララにあやかり、ドライバーらに交通安全のお守りにしてもらう。
 カードは名刺サイズ。人気騎手の武豊さんが騎乗した際の写真を用い、五万枚を作成した。 県警交通企画課によると、今年、県内の交通事故による死者は4月末現在で100人。人身事故は年々増加傾向ですでに約14,000件に上り、昨年同期比で500件以上も増えているという。 
 同連合会は「『たずな』ならぬ、ハンドルを握る手にゆとりを」と安全運転を呼びかけている。


 春うらら


 負けて万歳されるハルウララの登場は、人間の歴史が始まって以来の出来事ではなかろうか。そして、当たらないことの幸福感を味わえる日本の新しい時代が「うららかなる地球の春」とともに、やってきたのだ。


 孝志ががフリータの頃、知り合った友人から頼まれ、毎日競馬ばかりやっていた。自分の金でやるわけではない。彼はただ一番人気の馬券を全レース買うだけのバイトだった。しかも毎日やるためには、地方競馬をあちこち回る必要があった。
 バイト料は一日16,000円だから、遊んで、しかも、簡単な仕事で金が入るので、競馬好きな人が知ったら、どんなにうらやましがることだろう。

「どうして、私みたいな競馬を何も知らない人に頼むのですか」

「もし、競馬好きだったら、ギャンブルに夢中になってしまうし、自分の金で遊んでしまうだろう。君みたいな何も知らない人だから、頼める仕事なんだよ」

 孝志は、その日の軍資金を100万円受取り、1レースの5000円からスタートし、最終の12レースまで、負けたら倍賭けする方式で、一番人気の馬券の単勝を買うだけである。もし、そのレースが勝ったら、賭け金は最初の5000円からスタートするというものである。

 例えば、1R 5000円賭けて、負ければ、2R 10000円賭ける、また、負ければ 3R 20000円賭ける そこで、当たれば、一番人気の平均配当は3倍くらいなので、60000円手に入る。そこまでに、使った賭け金合計35000なので、差し引き25000円儲かるということになる。・・・・・後は省略して、ここで、全レースが終わったとして、友人のところに帰り、孝志は手数料として16000円受取り、友人は9000円儲かったことになる。

 つまり、これは確率論なのである。一番人気が当たる確率は3Rに1回であるということが過去の統計上で計算できているからである。

 では、もし、賭け金を4倍賭けにして、やったらどうなるであろうか。1R5000 負け 2R 20000負け 3R 80000勝ち で、三倍の240000円受取り、使用金額105000円差し引くと、135000円儲かり、孝志への手数料16000円を差し引くと、友人は一日で、119000円儲かるというものである。

 これを解りやすく、表にしてみる。
確率三分の一において、
賭け金を負けたら2倍賭け、また4倍賭けした場合の計算
内容 勝敗 投入額 累計 勝敗 投入額 累計
1R 賭け金 5000 5000
配当金
収支 −5000 −5000 −5000 −5000
2R 掛け金 10000 20000
配当金
収支 −10000 −15000 −20000 −25000
3R 掛け金 20000 80000
配当金 ×3 60000 ×3 240000
収支 収支 +40000 +25000 +160000 +135000
手数料 −16000 −16000
利益 +9000 +119000

 この方式では、「今日一日でいくら欲しいかを決める」それによって、最初賭ける金額と賭け金の倍率と必要軍資金が決定されることになる。

「孝志くん、この方式はね、確実に儲かる競馬なんだよ」

 孝志はこうして毎日競馬場に出かけていった。負けが進んで、やっと当たると、手にする金額は数百万にもなるため、それをうらやむオヤジが声をかける。

「おい、兄ちゃん、キップがいいねえ、一発勝負だもんなあ」

 でも、孝志はうれしいはずはない、人の金であるため、盗まれたり、落としてしまったら、全責任がかかる。そのため、気分はかなり重くなっているのだ。それに一番人気のオッズ(予想配当)がどの馬かを見間違えたら、賭ける馬が変わってしまうので、友人のクレームだけでなく、弁償金の額も大きいのである。その時の一番人気は、レース開始までにはころころと変わるからである。

 こうして、1ヶ月が過ぎた。孝志はその結果を確かめてみた。本当に儲かったのだろうかと。もちろん、孝志のバイト料は入るのだが、友人ははたして本当に儲かったかどうかである。記録したノートの1ヶ月分を計算したら、その友人は1ヶ月で20万円儲かっていた。そして、孝志はその額があまりに少なかったので、唖然とした。でも、やっぱり儲かるのかと思いつつも、何か釈然としない気持ちがあった。

 もし、こんな方法で儲かるんだったら、誰だってやるじゃあないか。毎日、勝ち馬を予想して、何とか儲けようとしているみんなはまったく阿呆になってしまうじゃあないか。現実はギャンブルで身上をつぶすことが多いというのにさ。

 その友人はその1ヶ月で、孝志への依頼をやめてしまった。

「実は金が他の事に必要になったから」と。
 
 そして、1年たって、孝志はその友人のところに遊びにいった。すると、何やら、でっかいテレビ画面で競馬中継をし、そこに幾人かのお客さんがきている。友人はどうやら、この儲かる競馬システムをソフト化していた。それを、電卓のような携帯式小型パソコンとともに、1台30万円で売っていたのである。

 そして、お客を集め、実際に競馬レースを楽しみながら、儲かる競馬システムを売っていたのである。

「どうです。お客さん、確実に儲かるでしょう。この機械を持って、競馬場に行けばいいだけですから。しかも、あなたが必要なお金を簡単に得られるのですから」

 孝志はこのように、友人の部屋が事務所になっていたことに呆然とした。


 それから10年の月日が流れた。友人はどこに行ったのか消えてしまった。

 孝志には、「あの方式は本当に儲かるのだろうか?」という疑問を解決したくなった。そして、確率論を単純にして、計算してみた。すると浮き出てきたのは、「エネルギー不滅の法則」であった。


 エネルギー不滅の法則

 エネルギーが、ある仕事を介して変換する場合、外部からの影響を全く遮断してあれば、物理的、化学的変化があっても、全体としてのエネルギーは不変であるという原理。無からエネルギーを創造しえないことを示す物理学の根本的原理。1840年、ヘルムホルツ、ロバート=マイヤー、ジュールらによって確立



 孝志は一番シンプルな確率論である「白か黒かのギャンブル」を想定してみた。当たる確率は2Rに一回である。そして、ギャンブルの所場代は1割とした。そして、賭け金の最初は1000円としたのである。なお、配当金というのは、常に賭け金の合計から所場代を引いたものを勝った人に配分するものである。そうしないと、ギャンブルは成立存続できないからである。


 白は1000円賭け、黒も1000円賭ける。所場代は2000×0.1=200円である。

 まず、1Rは、白が勝ち、+800 黒は負け、−1000 になった。
 そこで、黒は負けを取り戻そうと、2R目は、賭け金を倍の2000円にした。

 すると、白が負け −1000 黒は +700 となった。

 3Rは、確率的に白が勝つので、白は思い切って、4倍に賭け金を増やした。

 そして、白は勝ち、+500 黒は負け、 −1000となった。

 4R目は黒が勝つ確率なので、思い切って、賭け金を100倍に増やして挑戦する。そして勝ったはいいが、その結果は−9100となってしまう。

 これも表にしてみよう。

内容 勝敗 勝敗 所場代
1R 賭け金 1000 1000
配当金 1800
収支 +800 −1000 200
2R 掛け金 1000 2000
配当金 2700
収支 −1000 +700 300
3R 掛け金 4000 1000
配当金 4500
収支 収支 +500 −1000 500
4R 掛け金 1000 100000
配当金 90900
収支 −1000 −9100 10100
合計 収支 −700 −10400 11100

 孝志は絶句した。

「なあんだ、結局儲かったのは所場を開く人だけにすぎない。そして、競馬をやる人はみな所場代をあげるために、一喜一憂しているだけだ。しかも、ギャンブルに熱くなればなるほど、所場代をたくさんあげているだけにすぎないんだ!」

 競馬をする人達の情熱のエネルギーは全部、競馬を主催する人たちに吸い取られ、そのエネルギー量は不滅であり、確実に競馬場者に変換されることを発見したのである。


 一体、あの友人も、その事務所にいたお客も、そして開発した競馬必勝法パソコンの機械はどこへ行ったのだろうか?

 そして、孝志は東京から高知競馬場へと、車を走らせた。ハルウララを応援するためである。

 そして、ハルウララに単勝で、1000円賭けた。

 110戦目だ、どんな馬だって、110回も挑戦したら、勝つってもんだ。これが確率論ではないとしたら何なのだ! それいけ、ハルウララよ。 俺の夢を載せてどこまでも走れ!


 やったあ、やっぱり見事に負けたぞ! 万歳! 

 ハルウララ、ありがとな、ありがとう! 

 負けることの素晴らしさを教えてくれて本当にありがとうよ。

 万歳! 万歳! 万歳!

 孝志の帰りの道には、雲一点もない大きな青空がいっぱいに拡がっていた。




   2004.6.16  

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