忘れ物
あるアベックだろうか、おそろいのヘルメットをかぶって、ドロドロ〜ンと、響きのいいナナハンのバイクが、中庭を通って、校庭の真ん中に止まった。
そして、二人黙って校舎を眺めている。
そこに、もとうさぎ小屋だったところから、大声で、誰かが話しかけてきた。
「よっちい と なつこ ではないかあーえー」
二人はどこか聞いたような声の方に振り返った。
走り寄ってくるおじいさんがいた。
「わしじゃ、わしじゃ!」
「え、先生ではないですか、新井先生! ここで何をやっているですか?」
「たまに、掃除にきているんじゃよ」
「え、仕事ですか?」
「いやあ、わしの道楽でな」
「道楽ですか?」
「ああ、ここに命の洗濯をしているんじゃよ。君たちこそ、ここに何しに来たんや?」
「失ったものを取り戻しに」
「そうか、そうか、それはそうと、二人は一緒になったんかい?」
「なったんですが、それが今・・・・・」
「そうかい、そうかい・・・それを取り戻しに来たんやな」
「はい」
「今日はいいところに来たな、ほれ、これじゃあ」
新井先生は一升瓶をとりだした。
「それに、ほれ」
つまみも取り出した。
「やりますか?」
「やろう、今日はちょうどいい花見ごろだけんな」
2004.6.5
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