奥多摩に廃校がある。春になると、桜が咲き、校庭のブランコが風に揺れている。
待っている、今日も子供たちの歓声と笑い声を・・・・・。



  忘れ物

 
 あるアベックだろうか、おそろいのヘルメットをかぶって、ドロドロ〜ンと、響きのいいナナハンのバイクが、中庭を通って、校庭の真ん中に止まった。

 そして、二人黙って校舎を眺めている。

 そこに、もとうさぎ小屋だったところから、大声で、誰かが話しかけてきた。

「よっちい と なつこ ではないかあーえー」

 二人はどこか聞いたような声の方に振り返った。

走り寄ってくるおじいさんがいた。

「わしじゃ、わしじゃ!」

「え、先生ではないですか、新井先生! ここで何をやっているですか?」

「たまに、掃除にきているんじゃよ」

「え、仕事ですか?」

「いやあ、わしの道楽でな」

「道楽ですか?」

「ああ、ここに命の洗濯をしているんじゃよ。君たちこそ、ここに何しに来たんや?」

「失ったものを取り戻しに」

「そうか、そうか、それはそうと、二人は一緒になったんかい?」

「なったんですが、それが今・・・・・」

「そうかい、そうかい・・・それを取り戻しに来たんやな」

「はい」

「今日はいいところに来たな、ほれ、これじゃあ」

新井先生は一升瓶をとりだした。

「それに、ほれ」

つまみも取り出した。

「やりますか?」

「やろう、今日はちょうどいい花見ごろだけんな」



   2004.6.5  

 
       のらり くらり