便利屋をありがとう通貨店に
 便利屋をありがとう通貨店に

 今、まったく現通貨が使われない社会を築くことはほとんど不可能に近いのですが、ある一部分については、まったく現通貨を使わなくても成り立つ社会もあります。
 インターネットの世界は、基本は無料の世界です。もちろん、その世界に入るには、基本的な金額は必要ですが、一歩そのネットに入ればほとんど無料の世界です。

 それと同じことが、今まで有料であったものが無料になることも可能です。

 そこで、今まで、現金取引をしていた会社をまったく無料で、しかもありがとう通貨で、取引する会社を作ったらどうでしょうか。

 それが移行しやすい会社は何かというと、便利屋さんだと思うのです。

 地域通貨ではもっとも古く活動されている、下記の1973年設立された「ボランティア労力ネットワーク」の仕事内容をみてください。

  
2004年度 ボランティア労力ネットワークの労力内容  

1。特老 掃除、見守り、話し相手、介助(着脱、食事、入浴、お花見、買物)、手伝(喫茶、陶芸、体操、 配膳、催し物、華道)、衣類補修、アイロンがけ、洗濯物整理、リハビリ(習字)補助、音楽療法、 一緒に唄う、マッサージ、髪カット、シーツ交換、デイケア介助、初詣付添、クリスマスリース作り、 盆踊り出店。  

2。病院 介助(患者、高齢者、子供通院)患者の相談相手、手伝(書類発送、昼食、受付、リハビリ、着脱、献血)、 衣類縫製及修理、膠原病患者の食事作りと介助。  

3。地域・自治会・公民館 青少年センター管理、ふるさと案内、町内清掃、公園清掃及植物水やり、手伝(敬老の日、弁当作り及配達、 夏祭、手工芸、配布物、華道、習字、葬儀、小学生行事、図書館、講演会、お盆、独居老人昼食会、母子保健)、 小学生引率、若者と交流、ふれあいサロン、指導(押花作り、布絵本作り、パソコン、和裁、卓球、折紙、 日本語学習)、防犯パトロール、電話相談、ガイド、炊出し、点字製本、玩具修理、料理教室、手話講習会、 保育、救護(野球大会)、空缶拾い、送迎、テニスコート整備、子育て支援、味噌作り、会議司会、バザー。  

4。障害者に関わる施設 電話相談、拡大写本作り、介助(花見料理作り、送迎、外出)、手伝(相談会受付、知的障害者作業所、配食、 昼食、絵画展、太極拳ヨガ指導、買物、洗濯物、葬儀、リハビリセンター、ドーマン法、サロン)、校正、 バザー用品作り、点訳奉仕、手紙書き、会報発送、点字校正、筆記通訳、リーディング(新聞等)、マップ作り、 聾唖者と交流、朗読テープ作り、ダンス補助。  

5。老健 訪問、手伝(昼食会、介護、洗濯物、掃除、デイケアサービス、喫茶、餅つき、華道、食事、折り紙、押花、 書道、陶芸)、理髪サービス、介護(食事、入浴)、人形作り、本寄贈、シーツ交換、音楽リクリエーション (唄をうたう)、ゲーム相手、話し相手、お花見付添。  

6。児童施設 洋裁、子育サークル支援(子供の相手、赤ちゃんの守り)、登校引率、児童介護、珠算教室、点字教室、 拡大写本、お話出前、本読み聞かせ、雑巾寄付。  

7。リサイクル ペットボトル、牛乳パックの回収、古切手、テレホンカード、ベルマークの収集、不要衣類、古新聞回収。  

8。個人 手作り菓子持参、話し相手、高齢者への手紙、友愛訪問、ゴールド会員宅訪問支援、児童学習補習、独居老人 サポート、姑さんの話し相手、清布作り、配偶者死亡に関する諸事手伝、障害者サポート、本や広報の録音 (テープ)、病院の送迎(高齢者)、指圧、雪片付け、ゴミ出し(高齢者宅)、病人の相手(知人、会員の妹)。  

9。老人会 お茶会、敬老会の手伝、ヨーガ指導、ふれあい喫茶、体操介助、話し相手。  

10。その他 ハガキ作成、アクリルタワシ作り、ボランティアショップ店番、食育ボランティア、フェスティバル手伝、 献血、肝臓友の会受付、手紙送付、町内会のケーキ作り指導、ハイキング、個展受付、はた織セット指導、 阪神淡路震災10周年記念行事手伝、給食配達、点字校正、広報配布、市民オンブズマン活動。   

 このボランティア労力ネットワークが作られたころ、同じようなボランテイア組織がありました。その名は「人材銀行」といって、ボランティアしたい人が自分が何ができるかいうのを登録するところでした。
 そこでは、労力や知的財産や物品や金銭など、自分が提供できるものを登録しておくのです。当時、私も労力を登録しました。

 すると、早速電話があり、視覚障害者の付添に行ってほしいというので、なんと国会までいくことになりました。いわば陳情する視覚障害者の足のかわりになったのです。
 翌週になると、海外に送る古着の整理をしてほしいというので、まる一日それをしたのですが、そこにきている人たちは特殊な団体のような奥様たちでした。そのため、一人仲間はずれにされたような寂しい気持ちで仕事をしたのです。そのため、なにかその人材銀行の仕事がつまらなくなってしまいました。

 翌週にも、依頼の電話があったのですが、たまたま用事があったことと、仕事のつまらなさがあったので、ことわってしまいました。2回ことわると、もう依頼はこなくなってしまい、二度と依頼はこなくなったのです。自分からも依頼をすることはありませんでした。

 今この人材銀行はなくなって、検索しても、政府のハローワークの名前になって、無料の仕事斡旋所になっています。

 この人材銀行の変遷をみても、人は無料で働くボランティアだけでは続かないと思えるのです。なにかしらの見返りがないと、その仕事はつまらなくなります。それは無償の愛というのは一方通行の愛のようなもので、長続きしません。何かをしたら、何か返ってくるものがないと、そこに楽しさを感じることはできないようなものです。

 ボランティア人材銀行は消えても、ボランティア労力銀行は残っています。この差は、見返りがあるかどうかの差だったと思うのです。

 この労力の見返りの内容が金銭の場合は便利屋であり、時間通貨(労力ネットワークでは1時間1点)であったのが、労力ネットワークだと思えるのです。

 この労力ネットワークのおよそ30年間の活動で、1年間に、下記の時間通貨が使われています。

 
ボランティア労力ネットワークの2004年度の時間通貨流通内容

1。支部(197点) 支部関係(出席、会場、支部役員の謝礼)
2。指導(133点) パソコン、ビーズ講習、フラワーアレンジメント
3。運転(307点) 会員の送迎、車で案内
4。園芸(162点) ガーデニング、除草、水やり、植木剪定
5。掃除(123点) 家内外掃除、ガラス磨
6。補修(13点) 網戸交換、物置修理
7。手伝(44点) 事務、新聞取り入れ、学童保育お迎え、留守番
8。買物(21点) 食料品等
9。看病介護(42点) 姑さんの見守り、病院付添
10。高齢者(21点) 外出、散歩、付添
11。話し相手(17点) 姑さんほか
12。医療(14点) 治療(東洋医学)
13。見舞(13点) 病気
14。料理(168点) 食事仕度、菓子作り、豆腐作り
15。子育(173点) 子供預り、ゲーム、産湯、子守
16。作品製作(167点) 紙雛作り、ビデオ制作、帽子、木彫、ブローチ
17。リサイクル(91点) リサイクル祭り参加、テープ、本、衣類交換
18。和洋裁(92点) 着物仕立、リフォーム
19。理美容(5点) カット、毛染
20。旅行(35点) 観光ガイド
21。宿泊(55点) 会員宅宿泊
22。配送(8点) 荷物、広報配布
23。動物(2点) 犬、猫の餌やり
24。その他(152点) 情報提供、ダビング、司会、予約、チケット

合計 2055点 支部数 130支部  提出支部数 58支部(45%)
 1年間に全体で、、2055時間ですから、一人で、一日 約6時間働いていることになります。130支部あるので、130人の時間として分ければ、一人につき、年間15時間、一日3分働いていることになります。

 この時間通貨の流通量では、現通貨の流通量に比べて、とても生活できる力はありません。でも、30年以上も続いている労力ネットワークの活動は奇跡的な力にも感じることができます。

 ここで使われている通貨は時間通貨ですので、もし、時間通貨であるありがとう通貨を同じようにして流通させたら、労力ネットワークの10分の1の年間200時間も流通できたら成功したようなものでしょう。

 時間通貨をもっと発展流通させられるようなアイデアを出す必要が今求められていると思うのです。

 そこで、時間通貨に適した職業でなりたっている現通貨の職業は便利屋です。さらに、大きくして儲かっているのが人材派遣会社です。最近では大手の人材派遣会社が介護事業に進出しています。

 この人材派遣の事業に、時間通貨が適応しやすいように思えるのです。

 私は長く便利屋をやっていた経験から、その仕事内容を現通貨からありがとう通貨への移行は可能だと思えるのです。しかも、便利屋も人材派遣業も基本的に同じなので、やはり、ありがとう通貨で、人材派遣は可能であると思えます。

 ただ、その移行に際して、大きく変化するのは顧客との関係です。

 現通貨で取引されている顧客と時間通貨で取引される顧客ではまったく違った需要と供給が生まれてきます。

 それは、今まで現通貨で成り立っていた便利屋さんの顧客と便利屋さんの関係は、いっさい崩れ去ってしまいます。

 つまり、便利屋さんは供給者であり、顧客は需要者なのです。これはいわば、一方通行の関係が主なのです。顧客に対して、会社がサービスを行う図式なのです。

 でも、ありがとう通貨では双方向の助け合いが基本なので、一方通行の需要供給関係はできません。必ず双方向の需要と供給関係になってくるのです。

 例えば、

 現通貨では、便利屋さんが1時間顧客に対して掃除して、3000円もらいます。ありがとう通貨では便利屋さんは1時間顧客に対して掃除をして、1時間の掃除の内容を記載したありがとう通貨をもらいます。そこで、顧客と便利屋さんの関係は、ありがとう通貨では顧客も便利屋さんに対して、依頼されれば掃除を1時間する必要がでてきますので、お互いに掃除をしあうような対等の関係になるのですが、現通貨ではそれはできません。できたとしても、プロの3000円の掃除と素人の3000円の掃除の仕事の差がでてきて、対等の関係にはなりません。

 しかも、現通貨の社会では、「お客は神様」で、かならずお客は便利屋さんより上の立場なのです。

 それに対して、ありがとう通貨では「お客」とはかならず平等関係になります。そのため、今までの便利屋さんの顧客ではなく、まったくあたらしい顧客が生まれてきます。それは心がさらに深く流通できる社会が生まれてくるのです。


 現通貨では単に事務的な儀礼的なつきあいしかできませんが、ありがとう通貨では近所づきあいのようないつでも助け合いができる社会が形成されてくると思われるのです。

 さらに、ありがとう通貨では会社と顧客の関係はほとんどなくなり、顧客同士の関係が中心になってきます。ありがとう通貨は顧客同士のあいだしか流通できないからです。そのため、会社はそうした顧客間のありがとう通貨の流通を促進する手伝いが中心になります。

 そして、会社をありがとう通貨店とするなら、そこは単に顧客と顧客を結ぶ仲介役になるだけにすぎません。仕事の取引はあくまで、顧客同士になるので、顧客という言葉も消えてしまいます。ありがとう通貨を使って協力しあう者同士というような姿になるでしょう。

 これが人材銀行にように、発展すると、それはいわば、ありがとう通貨で働いてくれる必要な仕事をやってくれる人を、自分で探して決定するようになり、ありがとう通貨人材銀行は、単にそれぞれの情報を公開するだけになります。

 たとえば、ヤフーオークションのように、必要なものを検索して、さがしだし、自分の責任で依頼していくようなものになってくると思うのです。このオークションにしても、それは売り買いが同時にできます。 それと同じく、仕事をする人も依頼者も同じ人がなることができるようにすることで、発展できると思われます。

 今はインターネットがとても便利になり、こうしたありがとう通貨を流通することもしやすい環境がととのっていると思えます。