どんな人もいずれ死出の旅をすることになる。これだけは100発100中の当選確率100%である。だが、ほとんどその準備をしないで旅立つ人が多い。準備をしておけば安心して旅立てるはずだ。
▼死出の旅支度
還暦が過ぎると、大体やりたいことをやってきて、ちょうど高校生のように、これから自分が何をしたいのかがわからなくなる。違いは、高校生は挑戦する時間がたっぷりあるが、老人にはあまり時間がないことだ。
そのため、死出の旅支度を残された時間に費やすのが仕事みたいになる。
▼死出の旅には見える何をも必要ない
「人生は旅である」ともいう。人生の旅の出発も、到着も、そこは生まれる前の世界であり、死んでいく世界でもある。その世界にはほとんど見えるような荷物がない。しかし、生きている間にはたくさんの荷物を抱えている。それらを全部死出の旅には持っていけないので整理する必要がある。
▼死出の旅の荷物は心だけである
自分の倉庫には捨てられないものがたくさんしまってある。特に、思い出の写真やものである。そんな思い出は残された家族にとってはほとんど必要のないもので、いずれ処分されてしまうようなものばかりである。
私の父母で残しているのはその遺骨と写真と先祖の名前くらいのものである。それらも世代がかわるごとに必要がなくなるものである。
どんな思い出がつまったモノであっても、それはいずれ無用なものになる。つまり、死出の旅にはどんな思い出品も持つ必要がない。
だが、見えない思い出は持っていける。それは心である。人は肉体の他に心を持っているからであり、肉体は旅立っても、心は常に生きているかのように、残された人の心に残る。その心は世代に伝わって残されていく。いわば、死出の旅の荷物は心だけである。
▼忘れてはいけないコト
倉庫にしまってある思い出の品物を整理するにあたって、そこに基準を設けてみたい。
それはけして忘れてはいけないことだけを残すのである。
あの原爆の日をけして忘れてはならないことのように、自分の思い出もまたけしてわすれてはいけないことだけを残す。それは死んでも忘れてはいけないコトという意味でもあるし、それは残された人に一番伝えたいコトでもあるからだ。
それ以外は、忘れてもいいこと、忘れねばならないことで、捨て去っていいことなのだ。そうして死出の旅支度をしたいものである。